1998年の視察報告を振り返りもうすぐ行われるATAC2016を考える

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(光明特別支援学校の校章
今週の金曜日からATACです。

また、今年も参加させてもらいます。
さて、私が光明養護学校(現在の光明特別支援学校)に勤めていたときに当時の文部省の委託を受けて「マルチメディアを活用した補充指導についての調査研究(病気療養児に関する調査研究)」というのをやっていました。
病気の子どもたちの学習支援としてマルチメディア(今ならICTかな)を活用すれば、学習に参加できるなど、可能性があるのではと模索をしていた時代です。
そのときに、同僚にATACに行ってもらって(私も行きましたが)研修を深めてもらいました。
当時の光明養護学校のWebサイトには、その記録が掲載されていたのですが、学校内でのサーバではなくなったので、現在はありません。
たまたま、その資料が出てきたので紹介します。
(長文ですが)

「ATACカンファレンス1998」報告書
中学部 AR
(1)基調講演「AACと類人猿の言語研究の接点」
類人猿の言語研究の中で、類人猿が手話や図形シンボルを記号として学習し、人間とのコミュニケーション手段として利用するようになった事実があります。こういった研究が実は、スピーチの獲得や使用に大きな困難を示す重度言語障害者に、スピーチのみに依存しない新たな言語/コミュニケーションのモデルを提供したというお話でした。
途中、類人猿(ボノボ)の言語研究の中で、図形シンボルを使ったコミュニケーションエイドを使って、人とのコミュニケーションを成立させていたVTRを見ましたが、これには驚かされました。学校等でコミュニケーションエイドを使っている場面と同じようにボノボがコミュニケーションエイドを使っているシーンにAACと類人猿の言語研究の接点を見たような気がします。
(2)「重い運動障害をもつ子どものためのコミュニケーション援助」
重い運動障害をもつ子どもは対象をしっかり見る/手を伸ばす/好きなところに行ってみるといった「向き」をつくることに多くの制限を受けています。コミュニケーションにおいてその「向き」やそれにともなう「表情」から、彼らの意図を理解していくわけですから、この「向き」が重要なわけです。よってかれら自身が主体的に人やものに「向かう」場面を設定し、子ども自身の「主体性」が目に見えて表れる場面を用意していくことが必要です。そういったお話から、例としてシンプルテクノロジーを使っておもちゃ遊びをすることが挙げられていました。しかしもっと身近なものでは、だっこしてあげる時に子どもがこちらを向いてからする。次に行く場面を見てから移動の介助をする等、子どもの「向き」を確認してから介助することが挙げられていました。私達は気付かないうちに何でも介助してしまって、子どもの向きを確認していないことがよくあります。普段から子どもの「向き」に注意しておくことが大切だと痛感しました。
また、重い運動障害を持っている子どもは、頭部や視線・注意のコントロールが悪く、知的な障害や視覚的な障害を持ち合わせている子が多いです。そういう子は人の「向き」や「表情」に気付きにくく、その人が「何について、どう思っているのか」を感じるようなことが難しいという話もありました。そこからはだっこする時に、両手を広げて「だっこしようね」のサインを見せてあげる等、「私たち自身のからだ」がコミュニケーション上重要な意味をもっていることをもっと意識して、子どもたちと関わっていく必要があるのだと感じました。
(3)「姿勢保持とコミュニケーション」
講演してくださった繁成さんは、娘さんに障害があり、その経験からさまざまな姿勢保持装置を考案している方でした。一緒に生活しているからこそ気がつくような細かい部分まで考えられています。「う~んなるほど」と思ったものをいくつか挙げておきます。
簡易型携帯ベッド:校外学習等でトイレを利用する時、とくに重度の子どもはベッドもなく困ってしまうことがありませんか?そんな時これはすぐれものです。普段は持ち運べるバッグのような感じ。パッと広げるとローラー付きのイス。さっと形を変えるとベッドに。
タンデム型自転車「Duet」:
自転車の前に車いすがついています。考えそうで考えつかない発想ですね。自転車の速度くらいで感じる風とかはけっこう気持ちいいですよね。そういう気持ち良さを味わせてあげたいという気持ちから作ったそうです。ビデオに重度の子どもが乗っている映像が出たのですがとても表情がいい!
以上の例は姿勢保持というところからは外れてしまいましたが、ちゃんと姿勢保持装置についてもたくさん紹介して下さいました。これらの装置は繁成さんの考え方によると、それを使う子どもや家族の生活を豊かにするテクノエイドだそうです。治療や訓練に使う機能的な面だけでなく、生活の道具として魅力ある製品をつくり出すことが求められているとの考えでした。私はこういった装置に対して今まで何か「固い」というイメージがありました。しかし繁成さんの製品には遊び心があって、とてもプラス思考的なものが多く今までのイメージを改めさせられました。楽しいことをすると、外へ気持ちが向きます。そこからコミュニケーションが始まるとすれば、これらの製品はそんなコミュニケーションのベースをつくるものだと言えます。
(4)「コミュニケーション機器用インターフェースの選択と適合」
コミュニケーションエイドに使う操作スイッチの選択は難しいといいますが、スイッチだけでなくコミュニケーションエイドのハードウェアやソフトウェア、その使い方を含めたインターフェイス全体の選択と適合は簡単なものではないというお話でした。それをクリアするにはどうすればよいか?講演者の方はチームアプローチが必要だとおっしゃってました。「どのスイッチが合うか?」一人で考えるとけっこう迷ってしまうことが多いです。その人にあったものを選ぶために、関わる周りのすべての人がそれぞれの視点からインターフェースの適合を考えれば、よりよいものを選択できると思います。
(5)「インターネットを活用した指導」
障害児学校・学級ネットワーク「チャレンジキッズ」についての実践報告がありました。その内容をいくつか挙げておきます。
おてがみ:参加者全員が公開でお手紙交換を行う場です。
発表会:お絵書きツールで描いたCGや簡単なアニメーションなどの作品を添付し、それについて講評しあう「会議室」です。
リレー絵本:子どもたちの描いた絵や朗読を絵本のページをめくる形で提示できるようにしたものです。
みたことしたこと:いろいろなみたことやしたことを共有し、話し合う場として活用されている。雪の話題の地域差等、様々なやりとりが行われている。身近な話題をもとに、学習が広がり、様々な地域を意識し相手を意識した交流が行われている。
チャレンジプリント:高等部印刷作業班において、共同作業を行う取り組みである。
こういったインターネットの利用は身体的なハンデを乗り越えて、障害のある人の世界を広げてくれるものだと思います。どちらかというと養護学校という狭い世界に閉じこもりがちな子どもが多いので、こういったものをどんどん利用することで外へ気持ちを向けていってほしいものです。私の友人がインターネットの100校プロジェクトに加入している学校に勤めていて、今度、交流ができないかという話をされました。具体的にどんな交流をすればよいのか困っていたのですが、この講演から、お互いの作品を紹介し合うような交流をしてみようかなと密かに考えています。
(6)「肢体不自由教育におけるATの利用」
重度重複障害児のスイッチ遊びの実践報告がありました。重度の子どもが車いすの下に取り付けられたおもちゃ(電動の車?)をワンスイッチで動かすことで、車いすを回転させて遊んでいる場面等をVTRで見ました。様々な実践は確かにいいものでしたが、自分の担当している子どもに近いところでの実践が見られなかったのは残念です。そして、どういう過程でスイッチを押して自分で遊べるようになったのかという部分が少なかったような気がします。もともと外に向かう力がある程度あって、スイッチ遊びにも興味が持ちやすい子どももいれば、そうでない子どももいます。これから実践していこうとする人にとって、後者の場合は遊べるようになるまでの過程が重要だと思います。そういった報告が聞けるとさらによかったです。
(7)シンポジウム「重複障害児とコミュニケーション」
ここまでハイテクを利用したコミュニケーションの話が多かったのですが、ここでのテーマは「指文字」です。全盲、全聾の生徒が指文字を使えるようになることで、コミュニケーションの輪が拡がっていったという話から、実際に指文字を使ってコミュニケーションをする「指文字交流会」が行われました。指文字はローマ字と同じように(子音+)母音で1音節を表します。
例:A(あ)→親指の腹を相手の手のひらにあてます。
KA(か)→Kは人さし指と中指で相手の人さし指をはさむようにあてます。Aは上記のとおりです。
実際に目をつぶって隣の人と手をあわせると、単なる文字のやりとりではなく、気持ちの交流もできるような気がしました。ちなみに私の隣は昨年度まで光明養護学校にいた伊藤先生で、手の先からかなりの緊張感が伝わってきました。
(8)「企業セミナー(こころ工房)」
新しいスイッチや、VOCA(Voice Output Communication Aid)=音声出力方式のコミュニケーションエイド、様々なスイッチを使った遊び方等の説明を受けました。
ステップバイステップコミュニケータ:75秒間45のメッセージを録音できます。お 話しの内容を順番に録音しておけば、朝の会の司会ができたり、短い絵本を読んだり、様々な活動に利用できそうです。
おかし作り:重度の子とお菓子をつくるとどうしても感触遊びが中心になってしまい、 実際につくるところは大人がやるというのが多いと思います。そうではなくて作る場面でもワンスイッチとおもちゃ等を使って工夫すれば、様々なことができるというお話でした。VTRではピッチングマシーンに卵をつけて卵を割ったり、マッサージ機にふるいをつけて振動で粉をふったりする様子が紹介されました。
(9)「研修を受けてから思うこと」
いろいろなワンスイッチを使ったおもちゃ遊び等を見て、「これはおもしろい、ぜひやってみよう!」という気持ちになって帰ってきました。「重度の子は受動的になることが多く、能動的になることが少ない。こういう遊びを通して能動的になることで外へ気持ちを向けてコミュニケーションのベースを作っていく」そんな話を多く聞いて、「なるほどなるほど」とますます「やってみよう」という気持ちになりました。しかし実際、自分のグループの子どもを前にいろいろやろうと考えても「楽しい」ことが思いうかばない。
いくつかスイッチを使った遊びをやったり、授業で取り入れてみるものの、それで子どもがすごく喜んだとかいうのがないんですね。それはもっといろいろなものをやっていないからだと思うのですが・・・うちのグループの生徒は、なかなか外へ気持ちを向けることが難しい子が多い。相当時間をかけて人との信頼関係みたいなものを作って、そこからいろいろな表情が出て、「何が楽しい、何が嫌だ」ということがこちらでも何とかわかってくることが多い。となると、いきなり「ワンスイッチを使ったおもちゃ遊び」といっても、やっぱり厳しいものもあるのではないかと考えてしまう。スイッチから気持ちが外へ向くのだろうか?きっと楽しいと思う生徒もいるのだと思いますが、すべてにおいて万能なものではないと思います。ここで大切なことはだからといってまったく無意味なものと割り切ってしまうのではなく、一つの方法として常に考えておく必要はあると思います。
スイッチを使わなければならないではなく、さりげない場面(休み時間とか)でちょっとスイッチを使って遊んでみて、子どもが楽しめるものがあったら、それをもっと深めていくようなやりかたをしていきたいと思います。

不易と流行 という言葉がありますが、今の時代になっては陳腐化している部分もありますし、そんな苦労をしなくてもということもあります。
よい時代になったといえます。
ですが、もしかすると、あの時代とそれほど変わっていないものがあるかもしれません。それは、基本的な考えが変わっていないという面もありますが、教員の意識や考え方が進んでいないのかもしれません。
私自身は、ものの流行から使い方や子供のニーズへシフトしていっていると肯定的には考えたいですが、いろいろなものが行きつ戻りつしているかもしれません。
そんなことを考えながら、約20年前の資料を読み返しました。

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